『時計じかけのオレンジ』狂気に満ち溢れた<キューブリック>の永久芸術

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荒廃したレッセフェールな近未来で、欲望を満たすため暴れまくる10代の少年の姿を描く「時計じかけのオレンジ」

鬼才スタンリー・キューブリックの狂気を伺える本作は、当時27歳だった俳優マルコム・マクダウェルが15歳のアレックス役を演じたことで有名だ。

本作は撮影から1年という短さで公開されたキューブリック史上・最速の映画だが、暴力を誘発する作品として公開中止運動が起こったのも事実。

その一方で「時計じかけのオレンジ」は<狂気的な芸術作品>とも謳われ、カルト的な人気を誇っている。

原作「時計じかけのオレンジ」ができるまでのストーリー

時計じかけのオレンジ

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暴力とベートーヴェンを愛する15歳のアレックスは、仲間とのいざこざで裏切られ、懲役14年の判決を受け投獄される。

彼は刑期短縮と引き換えに「ルドヴィコ療法」という人体実験の被験者となり、その後に出所したが、過去に侵した<罪>はアレックスを破滅的状況に追い込む。

こんな暴力的な原作を書いたのは、ローマ=カトリック教会の家庭で育てられた、作家のアンソニー・バージェスである。

バージェスは第二次世界大戦中、自分の妻がアメリカ人の兵士から、暴行を受けるのを目の前で見せられた。

これは後に妻の流産の原因にもなり、彼は妻を襲ったアメリカ人兵士を心の底から憎んだ。

しかし、ローマ=カトリック教会の家庭で育った彼は、真のクリスチャンになるために、最も恐ろしいことを許すと決断。

そのために執筆したのが、後に代表作となった「時計じかけのオレンジ」だ。

このディストピア小説は<暴力の象徴>として扱われるが、バージェスは「時計じかけのオレンジ」に<許し>の意味を込めている。

バージェスは「何を考えているか分からない変人」というような意味合いを持つ、「時計じかけのオレンジのように奇妙な」を少し変えて、タイトルを「時計じかけのオレンジ」にしたという。

発表から数年後、この作品はスタンリー・キューブリック監督によって映画化された。

完璧主義者スタンリー・キューブリックのごだわり

時計じかけのオレンジ

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スタンリー・キューブリックは監督デビュー当時から、かなりの完璧主義者として知られている。

彼の作品の中で「時計じかけのオレンジ」は、最も<完璧>を求めた作品と言っても過言ではない。

映画の冒頭シーンは数分程度だが、その数分のために4時間かけて何度も撮影している。

有名なルドヴィコ療法のシーンでは、キューブリックのこだわりで本物の医者までもがキャスティングされた。

アレックス役のマルコム・マクダウェルは、もともと爬虫類に対して恐怖を抱いていたが、それを知ったキューブリックは彼を威圧的な性格にできると考え、撮影現場にヘビを持ってきた。

それがペットのバジル役で登場した、ボアコンストリクター(ヘビ)である。

また、早送りで描かれるアレックスが2人の女性を自宅に招き入るシーンでは、28分のノーカットを何度も撮影したという。

彼は完璧を求めるがあまり、キャストたちに何度も激怒し、挙句の果てには一部の女優が自ら降板したほど。

映画のラストシーンは合計で74回も撮影し、キューブリックはアシスタントに未使用の映像を全て破棄させた。

公開のときは、劇場の所有者によって自身の完璧な作品が編集されるのを恐れて、コピーの代わりに検査済みのフィルムを毎週届けていた。

これが鬼才スタンリー・キューブリック監督による、映画「時計じかけのオレンジ」への愛である。

本作のために作られたナッドサット用語

時計じかけのオレンジ

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ナッドサット用語とは、言語学者でもあった原作者のアンソニー・バージェスが、「時計じかけのオレンジ」のためだけに作った言語だ。

この<ナッドサット言語>こそが本作の味と言っても過言ではなく、70年代のイギリスでは本作の熱狂的なファンである若者たちの間で、ナッドサット用語が広まった。

小説では莫大な量のナッドサット用語が登場し、映画ではその半分ほどが使われている。

例えば「アピ・ポリ・ロジー」という単語はお詫びの意味であり、「ドゥービードゥー」OKという意味だ。

映画で使われたナッドサット言語の一部

  • エッギィウェッグ(卵)
    例:今日の朝食はエッギィウェッグだった
  • ガディワッツ(内臓)
    例:ガディワッツの調子が悪い
  • ドレンクロム(ドラッグ)
    例:あいつはドレンクロム関係で捕まった
  • ルッカフル(スズメの涙)
    例:ルッカフルほどの小銭しかない

原作小説に登場したナッドサット言語の一部

  • シャープ(女性)
    例:あのシャープが気に入った
  • ストラック(恐怖)
    例:あいつはストラックに怯えている
  • イェッケト(運転)
    例:今日は俺がイェッケトする
  • スプーギー(おびえる)
    例:なにをそんなにスプーギーしてるんだ?
  • ヴレッド(危害を加える)
    例:誰にヴレッドされたんだ!

映画史を変えたマルコム・マクダウェルの即興演技と役者魂

時計じかけのオレンジ

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「時計じかけのオレンジ」がここまでカルト的な人気を誇ったのは、キューブリックの<完璧主義なこだわり>だけではなく、主演のマルコム・マクダウェルの即興演技と役者魂にもある。

映画の序盤でアレックスが仲間と作家の家に押し入るとき、彼はアーサー・フリード作詞の「雨に唄えば」を歌う。

このシーンは非常に有名であり狂気じみている。しかし、もともと「雨に唄えば」の歌唱は脚本に含まれておらず、マルコム・マクダウェルの即興演技だ。

キューブリックは彼が踊れることも知り、すぐに「雨に唄えば」の権利を10,000ドル(約106万円)で購入し、この狂気的なシーンが実現した。

また、有名なルドヴィコ療法のシーンでは、途中でまぶたの近くにある装置がずれ、角膜を傷つけたことにより失明しかけている。

通常だったらここで撮影を一時中断するが、マクダウェルは麻酔を使い、角膜が傷ついてもなお撮影に挑んだ。

昔の仲間(警官)によって水槽に沈められるシーンでは、呼吸用のパイプがうまく起動せず、窒息状態にも陥っている。

それだけではない。ルドヴィコ療法の成果を披露する場面では、肋骨にひびが入り、苦しみながら撮影を続けたという。

恐るべき役者魂だ。

映画の公開後、主人公アレックスがイギリスに与えた影響

時計じかけのオレンジ

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映画が公開されてから数年後の1973年、「時計じかけのオレンジ」は暴力を助長する作品として多くの批判があった。

イギリスでは映画に魅了された16歳の少年が、アレックスのような恰好をして「雨に唄えば」を歌いながら、オランダ人少女を襲う事件まで発生。

これを受け映画の視聴禁止を訴える団体の過激さがまし、キューブリックと妻に命の危険を脅かす脅迫文が送られたことで、ビデオの販売を一時的に取りやめた。

そのため、本作の熱狂的なファンたちは、フランスからビデオを購入する必要があった(当時の英国でビデオの購入はできなかったが、視聴自体は禁止されていない)。

キューブリック死後の翌年(2000年)に本作は再びイギリスで公開され、ビデオ屋に多くのファンが殺到し、「時計じかけのオレンジは売り切れ」という看板が多く見られた。

また、本作で主演を務めたマルコム・マクダウェルも、公開から数年は多くの批判が寄せられ、パーティーで会った俳優のジーン・ケリーには嫌悪感を抱かれたという。

狂気に満ち溢れた<キューブリック>の永久芸術

時計じかけのオレンジ

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映画「時計じかけのオレンジ」を芸術と謳う評論家もいれば、こんなのは芸術じゃないと言う評論家もいる。

これは私個人の意見だが、ストーリーだけではこの狂気に満ち溢れた作品を<芸術>とは言えない。

なぜなら、常人が拒絶するような、暴力などの描写が多いからだ。

しかし、アンソニー・バージェスが本作に込めた許し、キューブリックの徹底した完璧な愛、マルコム・マクダウェルの即興演技と役者魂。

これらを中心に見ると、「時計じかけのオレンジ」が映画史に残る芸術と言ってもいいはずだ。

もちろん人によって賛成派・反対派はいる。だが、私は本作の<意味>を理解した上で、もう一度映画を見てほしいと考えている。

原作には映画で描かれなかった削除された章もあるため、小説版を読んでみるのもおすすめだ。

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本ページの情報は2020年9月時点のものです。
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