『フルメタル・ジャケット』キューブリックの<狂気作>はどのように誕生したのか?

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80年代後半。あまりにも狂気じみた<人間兵器>を描き出した映画が公開された。

それがベトナム戦争を題材にした傑作とも謳われる「フルメタル・ジャケット」だ。

監督のスタンリー・キューブリックは、今まで手作業でフィルムを継ぎ合わせていたが、本作で彼は初めてコンピューターによる編集を行った。

公開後にアカデミー賞の脚色賞にノミネートし、全世界で1億2,000万ドル(約127億3,885万円)の興行収入を叩き出した本作は、30年経った今でも狂気を感じる。

「フルメタル・ジャケット」は主に戦争映画として知られるが、エクストリームなヒューマンドラマでもあり、人間としての価値を否定された兵士らが<凶器>と化す姿を描く。

キューブリックの撮影スケジュールが導いた狂気

フルメタル・ジャケット ジョーカー

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まず「フルメタル・ジャケット」の狂気度が300%にまで膨れ上がったのは、キューブリックがキャスト達に楽しませながら、戦闘シーンを撮影したことにあるだろう。

本作は「ベトナムでの他愛もない会話(序盤)」→「ベトナム戦争(終盤)」→「海兵隊の訓練キャンプ(中盤)」といった、奇妙な順番で撮影されている。

最初に「ベトナムでの他愛もない会話」を撮影したのは、ここが戦場、これから戦闘が始まるとは思えないほどのリラックスした兵士を描くため。

次に戦闘シーンを撮影したのは、キャストたちが<戦争>という重いテーマでも、人間凶器と化した兵士役を楽しませたいという理由があった。

なぜなら、最初に訓練キャンプのシーンを撮影してしまうと、ほとんどの主要キャストがシリアスな演技を見せてしまうからだ。

映画でも描かれたが、当時の兵士らは皮肉で<まと>に似たロゴである、「ラッキー(運がいい)ストライク(命中)」というタバコのパッケージを、ヘルメットのゴムに挟んでいた。

キューブリックはこういった皮肉にもこだわり、出演者に何も考えさせず、戦争を<普通>だと思っている人間兵器を最初に演じさせ、本作の狂気度を300%にまで膨れ上がらせることに成功した。

逃げる奴は皆ベトコンだ、逃げない奴はよく訓練されたベトコンだ

フルメタル・ジャケット

輸送ヘリから一般のベトナム人を狙撃するドア・ガンナーと、本作の主人公ジョーカーがリラックスしながら会話するシーンでは、まさにキューブリックの制作意図が視聴者に伝わったことを意味する。

『まるでそびえ立つクソだ!』

フルメタル・ジャケット ハートマン軍曹

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やはり「フルメタル・ジャケット」最大の見どころは、人間が殺人マシーンと化すプロセスを描いた、海兵隊の訓練キャンプのシーンだ。

ハートマン軍曹による言葉の暴力は、人間としての価値を徹底的に否定し、彼らに「俺は人間だ」という自覚を失わせる。

俺はキビしいが公平だ。人種差別は許さん。黒豚、ユダ豚、イタ豚を、俺は見下さん。すべて平等に価値がない

フルメタル・ジャケット

まさに狂気の沙汰だ。

実は軍曹役を務めた今は亡きR・リー・アーメイは、海兵隊の訓練教官を務めた経験がある。

もともとアーメイは別の役でオファーをもらっており、本作のテクニカルアドバイザーとしても参加していた。

キューブリックは適格なアドバイスをする彼に魅力を感じ、アーメイに軍曹役を依頼。

面白いのはこれだけではない、アーメイは軍曹役に選ばれた後に、150ページを超える侮辱のみのセリフをキューブリックに提出した。

他にもアーメイの逸話は多くある。彼は訓練教官としての役割を果たすため、撮影が始まっても出演者と話すことは一切なかったという。

これはキューブリックの指示ではなく、アーメイが映画だろうと他の出演者に訓練教官として恐れさせるために意図した、軍曹役・本作への愛だ。

また、アーメイの役者魂も凄まじいものであり、撮影期間中に自動車事故に遭い、その数日後に道路から滑り落ち肋骨を折っている。

彼は左腕が動かせない状況にもかかわらず、見事ハートマンとしての役割を果たした。

ロバート・デ・ニーロを超えた、ほほえみデブ

フルメタル・ジャケット ほほえみデブ

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人間を凶器に変える訓練所。自分の価値を徹底的に否定された者の中には、ほほえみデブのような人物が現れても仕方がないのかもしれない。

軍曹から<平等>に扱われた新兵も、ほほえみデブの勝手な行動に腹を立て、支えあうはずなのに<いじめ>という形に発展してしまう。

やはり「フルメタル・ジャケット」で、戦争の他に人間が凶器と化したシーンは、ほほえみデブがM14自動小銃でハートマンを射殺し、自らも命を絶つシーンだろう。

762ミリ弾…。フルメタル・ジャケットだ

フルメタル・ジャケット

ほほえみデブを演じた俳優のヴィンセント・ドノフリオは、7か月もかけて約31キロの増量に成功した。

当時の映画業界では1980年の「レイジング・ブル」で、ロバート・デ・ニーロが成し遂げた約27キロの増量が最高記録だったが、ドノフリオはそれを上回り記録を破る。

ほほえみデブの役作りは増量だけではなく、最後のシーンで見せた顔をしながら、私生活を過ごしていたという。

私が警察官だったら、間違いなく1人で職務質問ができないレベルだ。

黒く塗りつぶされた狂気の連鎖

フルメタル・ジャケット

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「フルメタル・ジャケット」は単なる戦争映画として見られる場合が多いが、本作は量産された<戦争映画>とはわけが違う。

監督のキューブリックは、ベトナム戦争の帰還兵が多く生存している80年代に、彼らを挑発するような本作を公開した。

しかし、過去に公開した「時計じかけのオレンジ」のように、脅迫ともいえる批判はされなかった。

なぜなら、「フルメタル・ジャケット」は単なるフィクション作品ではなく、黒く塗りつぶされた<狂気の連鎖>を描いているからだ。

最高だぜ、シャーリーン

フルメタル・ジャケット

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本ページの情報は2020年9月時点のものです。
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