映画『ジャーヘッド』海兵隊員の<退屈>を追求したメンデスの無感動作

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2005年11月4日、アメリカ全土である戦争映画が公開され、第10回サテライト賞で編集賞など合計4部門にノミネートした。

それが戦争文学の最高峰と謳われた、海兵隊員のベストセラー回顧録を映画化した「ジャーヘッド」だ。

従来の戦争映画だと迫力満載の戦闘シーンなどが鉄板だが、本作で描かれる<静かな戦争>は残念ながら、多くの支持を得られなかった。

しかし、この静かな戦争こそが監督サム・メンデスの制作意図であり、アメリカン・ヒーローとは程遠い若き兵のリアル(真実)を描き、映画史に名を刻んだ(隠れた)名作である。

若き海兵隊員の<退屈>を求めたサム・メンデスの制作意図

ジャーヘッド ジェイク・ジレンホール

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ベトナム戦争の帰還兵である父を持つアンソニー・スウォフォードは、父と同じく18歳になった1989年に海兵隊に志願した。

彼は仲間たちと過酷な訓練を耐え抜き、第7海兵連隊第2大隊司令部中隊付きSTAの前哨狙撃兵として、湾岸戦争のためサウジアラビアに派遣される。

戦争に勝つという使命感に燃えるアンソニーと海兵隊員たちだったが、サウジアラビアの砂漠の地で待っていたのは、戦闘とは程遠い訓練と待機だけの退屈な日だった。

というのがプロット(あらすじ)。

しかし何を隠そう、本作は言ってしまえば前線に行きたい海兵隊員の日常だ。

従来の戦争映画のような戦闘シーンはないため、多くの人は退屈に感じるだろうが、これが<リアル>であり、サム・メンデス監督の制作意図である。

「ジャーヘッド」に込められた思い

ジャーヘッド ジェイク・ジレンホール

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まずタイトルの「ジャーヘッド」というのは、海兵隊員をバカにする蔑称として使われることが多い。

この蔑称の由来は、容器は頑丈で立派だが中身は空っぽという意味などがある。

本作の名シーンともいえる、海兵隊員が映画「地獄の黙示録」を視聴するシーンは、まさに何も考えずに戦いたい「ジャーヘッド」を見ているようだった。

メンデスはとにかく一部の視聴者に感情移入させるため、本作の主要キャスト全員にジョージ空軍基地で本物の兵士と共に、4日間の訓練を課す。

キャストたちはそこで<兵士の日常>に触れ合い、メンデスは脚本なしで他愛もない会話や、テレビクルーからインタビューを受けるシーンを即興で演技させた。

そのため、本作はかなりグダグダな展開が多く、多くの視聴者を飽きさせる。

しかし、これがメンデスが込めた思い。このグダグダこそが映画「ジャーヘッド」なのだ。

リアルを求めた撮影現場

ジャーヘッド

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やはり「ジャーヘッド」がここまで傑作として謳われるのは、視聴者には見えないサム・メンデスの徹底したリアルの追求にある。

本作にはスウォフォードを含む海兵隊員たちが、娯楽の一環で大人向けビデオを視聴するシーンがあり、1人の海兵隊員の妻が浮気を告白するビデオを送った。

実はこの話、海兵隊員の間では「伝説」となっており、80年代の米軍は「ジャーヘッド」で描かれたような娯楽を楽しんでいた(おそらく現在も)。

メンデスはこういった細かいディテールのみならず、撮影現場で俳優たちの表情などにも<リアル>を求めた。

それを描くのが、ジェイク・ジレンホール演じるスウォフォードが、罰でトイレの汚物を掃除するシーンだ。

ここで描かれる汚物は全て本物の人間と犬の糞であり、ジレンホールが気味悪がる様子、吐きそうになる表情は全て本物。

また、本作で海兵隊員らは砂漠で5ヵ月以上も退屈な日常を過ごすが、メンデスはそれを再現するため、映画と同じように5ヵ月もかけて砂漠のシーンを撮影した。

他にも実際の兵士が「F**K !(クソ!)」という単語を多く使っていたことから、リアルを求め本作でもこの単語が300回以上も使われている。

「ジャーヘッド」と「フルメタル・ジャケット」の共通項

ジャーヘッド

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「ジャーヘッド」の退屈な日常がここまで傑作と謳われるのは、サム・メンデスが追求したリアルの他に、名作「フルメタル・ジャケット」との共通項も要因の1つだと思う。

「フルメタル・ジャケット」はベトナム戦争時、海兵隊の訓練キャンプで鬼軍曹ハートマンのしごきを受け、人間凶器と化した若き兵らの姿を描く。

この2作で共通することは「人間凶器」「殺人マシーン」であり、「ジャーヘッド」で描かれるトロイは、「フルメタル・ジャケット」のほほえみデブを見ているようだった。

ハートマンがほほえみデブを凶器にしたように、過酷な訓練でトロイも凶器に変わる。

「フルメタル・ジャケット」のほほえみデブは、訓練所を離れる前夜に敵ではなく軍曹を撃ち、自らの命も絶った。

「ジャーヘッド」のトロイも凶器に改造されたが、前線で敵と戦うことを許されず、撃ちたいのに撃たせてもらえないという複雑な苦悩があった。

戦争が終結したことにより、海兵隊員らは帰還するが、彼らは祖国でも常にこう思っていた。

俺たちは今も砂漠にいる

映画『ジャーヘッド』

本作は海兵隊員のリアルで退屈な日常を描くと同時に、無知により凶器に改造された青年のサッドな作品でもあるのだ。

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本ページの情報は2020年9月時点のものです。
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